sansin 南風堂の琉球夜話 sansin

古典、童謡にまつわる軽〜いお話し。


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みみちりぼーじ(耳切坊主)その2 CD sisa

 この「右二つ巴」の紋は、大村御殿の紋章です。第二尚氏 十代目尚質王の四男尚弘才北谷王子朝愛が始祖の王子家です。 前回は「みみちりぼうじ」の唄の内容を簡単に述べましたが 今回はもう少しだけ、掘り下げてみます。

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 琉球第二尚氏王朝第13代国王尚敬王(1700年 - 1752年)の頃 波之上のある寺に色黒で体格の良い住職がいました。 世間からは黒金座主と呼ばれ、説法が上手なうえに 囲碁も琉球で一二を争う名人だったそうです。 また不思議な術を使う僧でもあると言われていました。 年老いてからは、隠居寺の一つの住職となり 好きな囲碁などをして暮らしていました。 ところが、祈祷を頼みに来る婦女子に術をかけて いたずらをするような、好色坊主でもあったのです。 遂には秘法を使い謀反を企てているとの噂が、王の耳に入り 弟の北谷王子に黒金座主を調べるように命じました。

 北谷王子は文武両道に優れ、囲碁では薩摩にも聞こえた名人でした。 王子は妻をおとり捜査に潜入させるべく 黒金座主に祈祷を願ってくるように言いつけました。 王子の妻が隠居寺に入ると間もな く、寺の上に 黒雲がかかり大雨が降ってきました。 雨が上がり、 出て来た北谷王子の妻は衣服や髪を乱した姿でした。   黒金座主は己の肉欲を満たすために術を使っていることは、もはや明らかでした。

 北谷王子は黒金座主を賭け囲碁に誘い 「私が負けたらこの武士の誇りのかたかしらを剃り落とそう。」と言いました。 黒金座主は「よし、この大きな耳で もあげましょうかね。」と言いました。 北谷王子が勝ち「約束通りその耳をいただこう。」と言うが速いか 刀を振り下ろし座主の一方の耳を切り落としました。 逃げ惑う座主めがけて、もう一方の耳も切り落とそうと斬りつ けましたが 勢い余って刀は座主の首筋にまで達し、黒金座主は血まみれになって 苦しみもがきながら、こう言い残しました。「この恨みはきっと、きっとはらしてやる。」

 黒金座主の亡霊は、それから毎夜大村御殿に姿を見せるようになりました。 そして、北谷王子の大村御殿に誕生した男子は幾日もせずに死亡してしまいました。 次に生まれた男子も、また次に生まれた男子もたちまち早世しました。 北谷王子は跡取りの相次ぐ突然の死に、黒金座主の最後の言葉を思い出し 占ってもらうと、やはり怨霊の祟りだということでした。 そしてまた、北谷王子の家に子供が生まれました。 大村御殿の人々は「北谷家に女の子が生まれたぞ。大女(うふいなぐ)だよ。」 と首里中に響き渡るほどの大声で触れ回りました。 13歳の祝いの日を迎えた時初めて男の子だということが世間に知らされました。 その後はその子に何の災いもなく 北谷家は絶えることなく栄えていったと言います。

 民話ですから、あまり硬いことは言いっこ無しですが 北谷王子が自分の奥さんをこんな目に遭わせるとは考え難いですし このとき、筑佐事が一緒についていって影から護衛していたとも 言われているので、乱暴されるのを筑佐事が黙ってみている訳がありません。 (筑佐事とは警察の巡査か、警吏のような仕事をする人です。) また、勅命での調査なのですから公的に事情聴取をしなければならず いきなり斬りつけて、あげく殺してしまうというのも無理があります。

沖縄国際大学文学部 遠藤庄治教授の資料が大変参考になりました。 まだまだ手元の資料が乏しいのですが、機会ある毎に もう少し調べてみることにします。

hasi